インフルエンザより予防の難しいウイルスかも!

いつ頃からだったでしょう、インフルエンザとは別にウイルスが発見されて、冬にな
ると警告が出る感染症があります。 今回はその症状についてQ&Aを書くことにし
ます。 さらに詳しくはいろいろと記載された書籍などがありますので、そちらを見
て下さいね。

Q1 ノロウイルスによる胃腸炎はどのようなものでしょう?

ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は一年中発生しますが、特に冬に流行しま
す。 ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口感染し、ヒトの腸管で増殖し、
おう吐、下痢、腹痛などを起こします。 健康な方は軽症で回復しますが、子どもや
お年寄りなどは重症化したり、吐ぶつを誤って気道に詰まらせて死亡することがあり
ます。 ノロウイルスについてはワクチンがなく、治療は輸液などの対症療法に限ら
れます。 なので皆さんの周りの方々と一緒に次の予防対策を徹底しましょう。

(1) 食事の前やお手洗いの後など、必ず丁寧に手を洗いましょう。

(2) 下痢や嘔吐等の症状がある人は食品を直接取り扱う作業をしないようにしまし
ょう。

(3) 胃腸炎患者に接する人は患者の糞便や吐ぶつを適切に処理し、感染を広げない
ようにしましょう。 特に子供やお年寄りなど、抵抗力の弱い人は加熱が必要な食品
は中心部までしっかり加熱して食べましょう。 また、調理器具等は使用後に洗浄、
殺菌しましょう。

Q2 「ノロウイルス」ってどんなウイルスなのでしょう?

昭和43年(1968年)に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団
発生した急性胃腸炎の患者の糞便からウイルスが検出され、発見された地名を取って
ノーウォークウイルスと呼ばれました。 昭和47年(1972年)に電子顕微鏡
でその形態が明らかにされ、このウイルスがウイルスの中でも小さく、球形であるこ
とから「小型球形ウイルス」の一種と考えられました。 その後、非細菌性急性胃腸
炎の患者からノーウォークウイルスに似た小型球形ウイルスが次々と発見され、一時
的にノーウォークウイルスあるいはノーウォーク様ウイルス、あるいはこれらを総称
して「小型球形ウイルス」と呼ばれていました。 ウイルスの遺伝子が詳しく調べら
れると、非細菌性急性胃腸炎をおこす「小型球形ウイルス」には2種類あり、そのほ
とんどはそれまでノーウォーク様ウイルスと呼ばれていたウイルスであることが判明
し、平成14年(2002年)8月、国際ウイルス学会で正式に「ノロウイルス」と
命名されました。 もうひとつは「サポウイルス」と呼ぶことになりました。 ノロ
ウイルスは、表面をカップ状の窪みを持つ構造蛋白で覆われ、内部にプラス1本鎖R
NAを遺伝子として持っています。 ノロウイルスには多くの遺伝子の型があること
、また、培養した細胞及び実験動物でウイルスを増やすことができないことから、ウ
イルスを分離して特定する事が困難です。 特に食品中に含まれるウイルスを検出す
ることが難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定を難しいものとしています。

Q3 ノロウイルスはどうやって感染するのでしょう?

感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられています。

(1) 患者のノロウイルスが大量に含まれる糞便や吐ぶつから人の手などを介して二
次感染する場合。

(2) 家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多い所でヒトからヒトへ飛
沫感染等直接感染する場合。

(3) 食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理をする人
などが感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合。

(4) 汚染されていた二枚貝を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合。

(5) ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合。

特に、食中毒では(3)のように食品取扱者を介してウイルスに汚染された食品を原
因とする事例が近年増加傾向にあります。 また、ノロウイルスは(3)、(4)、
(5)のように食品や水を介したウイルス性食中毒の原因になるばかりでなく、(1
)、(2)のようにウイルス性急性胃腸炎感染症)の原因にもなります。 この多
彩な感染経路がノロウイルスの制御を困難にしています。

Q4 ノロウイルスによる食中毒は日本でどのくらい発生しているのでしょう?

厚生労働省では平成9年からノロウイルスによる食中毒について、小型球形ウイルス
食中毒として集計してきましたが、最近の学会等の動向を踏まえ、平成15年8月2
9日に食品衛生法施行規則を改正し、現在はノロウイルス食中毒として統一し、集計
しています。 平成23年の食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は
事件数では総事件数1062件の内、296件(27.9%)、患者数では総患者数
21616名の内、8619名(39.9%)となっています。 病因物質別に見る
と、患者数では第1位です。 過去10年間の発生状況を以下に示します。

年、事件数(件)、患者数(人)の順

平成14年 268  7961

平成15年 278  10603

平成16年 277  12537

平成17年 274  8727

平成18年 499  27616

平成19年 344  18520

平成20年 303  11618

平成21年 288  10874

平成22年 399  13904

平成23年 296  8619

死者の報告はありません。 なお、ノロウイルスによる食中毒の報告数は増加傾向に
ありますが、この理由として、ノロウイルス食中毒自体の増加のほか、検査法の改善
ノロウイルスに対する知識の浸透による報告割合の向上が考えられます。

Q5 ノロウイルスによる感染症は日本でどのくらい発生しているのでしょう?

ノロウイルスによる感染症は「感染性胃腸炎」の一つで、多くは軽症に経過する疾患
です。 感染症法では疾患の感染力や重症度に基づき、感染症を5段階に分類し、対
応することにしています。 ノロウイルス感染症は5類感染症に位置づけられた「感
染性胃腸炎」の一部として、全国の定点(約3,000カ所の小児科の病院または診療所
)から報告が求められており、その発生の状況について情報提供されています。 こ
こでは、感染症発生動向調査に基づき調査が実施されている『ノロウイルスが原因の
一つである「感染性胃腸炎」』の過去の定点からの報告数等を以下に示します。

ノロウイルスは冬の「感染性胃腸炎」の原因となるウイルスですが、感染性胃腸炎
多種多様の原因によるものを含む症候群であり、主な病原体は、細菌、ウイルス、寄
生虫が原因の病原体になります。 原因となる病原体の内、ウイルスは、ロタウイル
ス、腸管アデノウイルス、そしてノロウイルスがあるため、ノロウイルスの感染者は
感染性胃腸炎」の一部として報告されています。

定点報告数

平成19年 952681

平成20年 941922

平成21年 1148962

平成22年 989647

平成23年 1056747

定点当たり報告数(感染症発生動向調査事業)

平成19年 315.56

平成20年 307.32

平成21年 381.21

平成22年 328.57

平成23年 350.26

死亡数(人口動態統計)

平成19年 1432

平成20年 1732

平成21年 2164

平成22年 2208

平成23年 2163

報告数は「感染症発生動向調査事業」に基づく全国約3,000の小児科医療機関からの
報告によるもので、全ての患者数を把握するものではありません。 一方、死亡数は
厚生労働省統計情報部「人口動態統計」によるもので、死亡数は定点報告数の内数で
ないことに留意して下さい。(例えば、平成20年で、死亡数2163人÷定点報告数1056
747のような死亡率の計算はできません)

人口動態統計とは出生、死亡、婚姻等に関する統計で、死亡については、死亡診断書
に基づく死因の分類がなされています。

Q6 人へのノロウイルス感染は海外でも発生しているのでしょうか?

ノロウイルスは世界中に広く分布しているとされ、アメリカ、イギリス、ニュージー
ランド、オーストラリア、フランス、スペイン、オランダ、アイルランド、スイスな
どで人へのノロウイルスの感染が報告されています。

Q7 どんな時期にノロウイルス食中毒は発生しやすいのでしょう?

我が国の月別発生状況をみると、一年を通して発生はみられますが11月くらいから
発生件数は増加しはじめ、12〜翌年1月が発生のピークになる傾向があります。